山村留学で田舎暮らし

　神威岬の朝焼けは、知る人ぞ知る絶景である。空気の澄んだ朝より、少しもやのある朝の方が、太陽が大きくぼやけ、幽玄さが増す。私は珍しく早朝に目が覚めたので、神威岬まで来て見ることにした。
　８月の朝は、少し霧がかかっていることが多い。砂浜に出てみたら、名も知らない雑草に朝露がかかっている。私の足は露で少し濡れた。
　こんな早朝なのにチャリダーの先客がいた。先客というよりは、テントが張ってあったので、昨日から野営をしていたのだろう。キャンプ場ではなく砂浜とは大した通と見た。サングラスをしていたので歳は分からなかったが、若い女性だ。結構な絵になっていたので、私は、「神威岬をバックに写真を撮らせてくれないか？」とたずねてみた。すると、え〜、私でいいんですかぁ、という現代女性風の軽い返答が帰ってきたのだが、それにしても声が若い。失礼だが、と年齢を聞いてみたら１７歳だという。
　彼女は高校を中退していた。このパターンの例に漏れず、彼女も遊び歩いていたのだが、ある時夢に出会った。人生の再出発をかけ、親に夢の話をしたら、父親からこんなことを言われたという。

　「信用するに値する何かをやり遂げてみせろ。話はそれからだ」

　まぁ、信用ないのは当たり前だからね、と彼女は屈託のない笑顔でこういう。そこで選んだのがこの旅だったわけだ。
　しかしこの旅に親父が出した条件がおもしろかった。ちょっと思い出して書いてみよう。

・行った先の全ての郵便局から手紙を出せ
・金は渡さん。一宿一飯の恩義を体験してこい
・１年やる。日本を一周してこい

　親父さんの考えることは痛いほどよく分かる。女の子だから少々心配だが、そういった自覚の部分も含めて勉強してこいということだろう。繁華街とか夜の移動をしなければ、野営で身の危険を感じたことはなかったと、その少女は語った。どうしても市街地で宿に困ったら、墓地を捜すといっていた。墓地に女の子を探しに来るナンパ野郎は、まぁ、ちょっといないだろうしね。
　そしてその旅もフィナーレが間近だ。山口県からスタートした彼女は、一度桜島まで南下し、再度山陰を抜けて北上し、中部、関東、東北を抜け北海道に渡り、宗谷岬が旅の終点だからだ。日本最北端の郵便局から手紙を出したら、フェーリーで帰ってこいと父親から言われているという。
　
　親父さん、あなたの娘はもう大丈夫ですよ。だってフェリーに乗らないで帰るって言ってますから。どうしましょう？止めましょうか（笑）？
　　

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