山村留学で田舎暮らし

この地に住むようになって、このあたりの人は花をよく植えるなぁ、と思った。

　女性だけでなく、男性でも花を植える人が多いと感じた。怪しい商店のだんなは店内でハイビスカスを咲かせているし、畑の師匠はひまわりが好きだ。近所には、チューリップやコスモスに凝っている人もいる。
　家の前には大きな花壇が出来ていて、原色の鮮やかさが日にまぶしい。月明かりのお花畑と言うのもまた格別だが、カメラには収められない。デジカメには開放がないからだ。せめて３０sでもあればと思うが、凝りだしたらきりがないから止めておこう。
　やがて来る長い冬を乗り越えるための覚悟が必要だというなら、その手段として花を植えるという行為があるのかもしれない。花を植えている老人の後姿はどこかもの寂しい。

　私が・・・私が好きだった花は何だったのだろう。どうしても思い出せない。第一、好きだった花があったのかどうかも記憶にない。私の40年の人生の中には、花の景色の記憶がない。
　いや、子供の頃、家の周りは花だらけだったはずだ。それでも花の名前にこだわった記憶がないから、幼少の私には、花は当たり前すぎて興味の対象にはなっていなかったのだろう。

　ところで、現在の私も花にはまったく興味がない。その理由ははっきりしている。

　「食べれないから」だ。

　

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