山村留学で田舎暮らし

　怪しい商店は本当に怪しい。

　国道沿いにひっそりと建っているこの店は、町のライフラインを握ってもいる。もしこの店が閉まったら、近所の爺さん婆さんは食料を調達できない。町にある、たった一軒の店なのだ
　店主は無口で怪しい。挨拶すらしない。見かけないお客さんが店に入って来ようとすると、中から眼光鋭くにらみつけ追い返す。体中から「こっち来るなオーラ」をたっぷりと出しているのだ。

　これで商売が成り立っているから不思議だ（＾＾；

　そのオーラを破り、勇気を振り絞って店内に入ると、「まぁ座れ」と言わんばかりに、空きのビールケースの箱を親父が差し出してくる。もちろん無口だ（笑）。座布団はないが、代わりにダンボールの切れ端が敷かれている。座り心地は意外と中々良い。
　店内には不思議なことがいっぱいあるが、だれもそれを口にしないから、地元の人はこれが普通なのかな？と私は思っていた。しかし、どうもそれは私の勘違いで、やっぱり地元住民にしてみても不思議だらけな店なようだ。ここをうまくみんなに説明できないのが非常にもどかしい。
　ほうれん草が安く並んでいた。私は、「ほうれん草は作るのが難しいな」と親父に話しかけた。すると親父はほうれん草の束を私に差し出し、「持ってけ。銭はいらんぞ」という。付け足すように奥さんが、「昨日、畑で採れたから別にいいんだよ」と説明する。

　良いわけないだろ（笑）。

　新しいお菓子が並んでいた。「新製品だよ？」と奥さんが私に勧める。じゃぁ、もらっていこうかと私が言うと、奥さんは何故か困った顔をする。そしてちょっと考えてこういうのだ。
　「値段分からないから、１２０円くらいでいいよ」と。

　良いわけないだろう（笑）。
　
　あんまりにも良くしてくれるから、どっかへ行ったときにお土産を買ってくるのだが、次の日にはそれがショーケースに並んでいる。「昨日のアレ、うまかったぞ」と、気を使って親父が私にそう言うが、一口も食べてないだろうことがすぐに分かる。数が合わないから（笑）。こんな小さな町では、誰が何を買っていったかは、すぐにバレてしまうからね。
　
　時々、外の自販機でコーラのボタンを押すとビールが落ちてくる怪しい商店。夕方には酒飲みが自然と集まってくる怪しい商店。昭和クラスの賞味期限切れ商品が置いてある怪しい商店。私はこの店で給料の大半を使っている。



　ちなみにこの店には看板がない。東京なら、「看板のない名店」みたいなのが流行っているが、ここは名店でもなんでもない。ただ、数年前の台風で看板が飛んでいってしまっただけなのだ。

　いい加減に直せよ（＾＾；
　

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